« 汚れなき旅立ち(ジェネシス&アンジール) | トップページ | CCFFVII・PSP専用ケース »

失われた微笑(ルーファウス&ラザード)

Rufus0m1d

「ツォンさん、もう大丈夫なんですか?」
声を掛けて来たのは、若いタークスだった。

ツォンは三人の思念体に襲われ、重傷を負った。ヴィンセント・ヴァレンタインに救われたものの、長期の療養を余儀なくされた。思念体は消えたが、世界の混迷は続いている。有能なツォンの職務復帰に、タークスの誰もが喜んでいた。ツォンに対する彼等の信頼は厚かった。

「何か変わった事はなかったか?」
並んで社内の廊下を歩きながら、ツォンはさりげなく聞いた。若いタークスは、妙な事を言い出した。
「社長は、眼鏡をかける時があるんですか?」
「眼鏡?視力は良いはずだが」
「スーツの内ポケットに眼鏡を入れているのを見たんです。社長らしくない、古い物だったんで、気になって」

ツォンの顔が険しくなった。
「社長の護衛はタークスの仕事だ。だが社長のプライバシーまで覗き込む権利はない」
若いタークスは、ツォンの何時になく厳しい言葉に驚き、慌てて頭を下げた。
「すみません」

自分の席に着き、ツォンは不在中にたまった書類に目を通した。卓上のディスプレイに、様々な文字や絵が映し出される。社内報に”星痕病”から回復したルーファウスの写真と談話が載せられていた。豊かな金髪に端正な顔立ち、自信に満ち溢れた表情。だがツォンは、その後ろに隠された孤独な素顔を知っていた。

(社長・・今でも、あの方の事を・・)

それはまだセフィロスが英雄だった頃の事である・・・・・

Lazard0m1c

ルーファウスは、窓際に立っていた。

窓から射す光が金色の髪に踊っていた。細身の長身は、オフホワイトの仕立ての良いスーツに包まれている。端正な顔は影になっていたが、確かに彼はラザードを見ていた。
「お前達は下がれ」
タークス達は一礼して出て行った。

ミッドガルから離れたルーファウス所有の山荘である。タークスが迎えに来た。副社長の指示だと。ラザードも馬鹿ではない。単なる用件ではすまない事は解っていた。だが拒否は出来なかった。

「内密で私をお呼びとは?副社長」
平静を装い、ラザードは尋ねた。
「キミは有能だ。有能な人材は、我が社でも貴重だからな」
ルーファウスは顎で示した。
「こちらへ来てくれ」
ラザードは従った。

ルーファウスは少し窓から身を離し、ラザードを窓の前に立たせた。眼下には、緑の幾何学模様の庭園が広がっていた。様々な花々が、植え込みの間に鮮やかな色を見せている。山荘との境界を仕切る塀の向こうは、赤茶けた乾いた荒野だと言うのに。

「すべて本物の花だ。科学部門が絶滅した品種を再生させたものだ」
「素晴らしい、神羅の技術のたまものですな」
ラザードは警戒しつつ、言葉を選んでいた。
「ゆっくりと見るがいい。花を見ると心が安らぐ。キミも最近は気苦労が絶えないだろうからな。ソルジャーの失踪が続いて」

会議で同席する事はあっても、ラザードはルーファウスとは個人的に言葉を交わした事はなかった。ましてや二人きりで顔を合わせるのは、これが初めてだった。だが父であり社長であるプレジデントに疎まれ、僻地へ追いやられる程に、彼がキレ者である事は知っていた。

ルーファウスは、ラザードに身を寄せた。ラザードの肩に緊張が走った。
ルーファウスは静かに言った。

「ジェネシスとアンジールはどこにいる?キミは知っているのだろう?」

ラザードは窓の外を見たまま、すぐには答えなかった。緑の間に咲く真紅の花を見詰めていた。荒野からの風に吹かれ、薄い花びらは震えていた。自分とホランダーが通じている証拠を、すでにルーファウスは掴んでいる・・

ルーファウスは詰問はしなかった。むしろ穏やかにラザードに語りかけた。
「返答次第では、キミの処分を考えねばならない」
ラザードは死を覚悟した。神羅に置いては「処分=死」である。

ラザードもまた静かに答えた。
「覚悟は、出来ております」
「誇り高いな」

ラザードは、不意に背後からルーファウスに抱きしめられた。驚いたが抵抗はしなかった。ベルモットと皮の匂いの混じった甘い香りがした。ラザードは耳元に熱い息を感じた。ささやきが聞えた。

「それでこそ、私の弟だ・・」

ラザードは息を呑んだ。やはり知られていたのだ、自分の素性を。ラザードは真紅の花を見詰めたまま言った。
「誇りなど、ありません」

ルーファウスは、ふっと笑った。
「何を言う」

必要なら、冷酷にも非情にもなれる。それが彼、タークスを敬服させ、次期神羅の総帥となるべき男ルーファウス。たとえ異母弟であっても、自分は社に仇なす者、この男が情などかけるわけはない。

背後から抱き締められたまま、ラザードは目を閉じた。
それは、死神の抱擁だった。

Rufus0m2a

「お前を、もっと知りたい・・教えてくれないか・・」
ラザードは窓硝子に手を着き、崩れそうになる身体を支えていた。

死を覚悟した諦めが、無様な抵抗よりも、同じ血の流れる死神に身をゆだねる事を選ばせていた。すべては闇に消える。消されてしまうのだ、自分の存在は完璧に。ある程度の社員なら、その事を知っている。神羅の繁栄の裏にある残酷な掟を。

首筋から再び這い上がって来た唇が、耳朶を打つ熱い息と共にささやいた。

「・・私を、兄と呼んでくれないか?」

ぬくもりと共に伝わってくるのは、満たされぬ心の飢餓感であった。そして自分も又隠していた孤独を剥き出しにされていく。ラザードは何度も口にしたいと思い、出来ずにいた言葉を叫んだ。

「兄さん・・!!」


二人は並んで天井を見ていた。
しばらくの静寂の後、ルーファウスは言った。

「ホランダーより、私を選べ」

ラザードは戸惑った。
「兄さん、いえ、副社長・・私の処分は?」

「社長が、親父があのようになったは、何故か解るか?」
ラザードは、微かに首を振った。
「孤独だよ、そのせいだ」

ルーファウスは言葉を続けた。
「力を得るほど人は孤独になっていく。孤独は人を歪ませる」

ラザードは、黙って聞いていた。

「私もかなり歪んでいるが、まだ人の心を忘れてはいない。だからお前が必要だ」
ルーファウスは、兄の手で弟の頭を抱き寄せた。
「お前が、神羅を支配する立場になればいい、私と共に」


二人は鏡の前に立った。
何もかも、虚飾を取り去った兄弟が映っていた。

ラザードの眼鏡は伊達だった。彼は自分がルーファウスに似ていると知っていた。それを隠す為の物であった。だが、これ程とは思っていなかった。その顔立ちも背格好も、二人は双子の様に似ていた。兄と弟は、互いの姿に感動を覚えていた。

「社長に、お前の事を公表させる」
「そんな事が出来るのですか?」
「社内では、我々親子に反対する勢力もある。お前は彼等にも人望がある」

ルーファウスは、どの幹部にも好意的な態度を見せていた。だが本当に有能なのは、リーヴとラザード位だと見抜いていた。

「お前の社内の立場も強化される。敵も出来るが、味方も増える」
「そうでしょうね、恐らく」

ラザードは、ルーファウスに見え透いた世辞を言わなかった。弟と認められても、慎重な態度を崩さなかった。それがルーファウスには好ましかった。

「その節度だ。それもいい」

ラザードは何か言おうと口を開きかけた。
だが、その唇は塞がれてしまった。よく似た形の唇に。

Lazard0m1b

親愛なる兄さんへ 

彼等を裏切った私はG細胞を移植されてしまいました。適性のない私は、急速に劣化が進行しています。まもなくこの命は尽きるでしょう。短い間でしたが、貴方を兄と呼べてうれしかった。私は誰も恨まずに、死・・・



走り書きは、そこで途切れていた。

「これを、どこで手に入れた?」
「スラム街の教会です」

ツォンは答えた。ツォンの任務のひとつに、スラム街に住む古代種の少女の監視がある。白髪の老人に「これをタークスのツォンに渡して欲しい」と頼まれたと、少女はツォンに告げた。ツォンは手紙の内容から、真に渡すべき相手が誰であるかを察知した。そしてルーファウスが山荘にいる時を見計らい、密かに彼の元に持参したのであった。

白いハンカチに載せて、ツォンがそっと差し出した物があった。
「手紙と一緒に、これが」

細い縁の眼鏡だった。レンズに血糊がこびり付いていた。ルーファウスは一瞬息を詰め、ハンカチごとそれを受け取った。その老人が、ラザードの変わり果てた姿である事は、疑いようもなかった。

動揺を隠し、ルーファウスは言った。
「ラザード統括は、ホランダー拘束の作戦中に殉職したと発表しろ」
「はい」
「その地位に相応しい扱いで。丁重にな」
ツォンは頭を下げ、出て行った。

一人になると、ルーファウスは壁に嵌め込まれた鏡の前に立った。楕円形の縁に細かな細工を施した骨董品である。滑らかに磨かれた表面に、ルーファウスの顔が映っていた。その顔は蒼褪めていた。誰もが冷酷と言う男の顔が。ルーファウスは懐から先程の眼鏡を取り出した。ハンカチで丁寧に汚れを拭き取ると、ルーファウスは眼鏡をかけ、鏡を見た。

弟がそこにいた。

弟よ・・もう誰も私を止める者はいないのだ。たとえ私が父同様に歪んでしまっても、もう誰も引き戻してはくれないのだ。神羅の生み出した忌まわしきものが、お前の命を奪った様に、私の心も奪われてしまうのだ。この星に、多大なる影響を与える権力と引き換えに。

弟よ、これから私は、多くの恐怖でこの星を支配するだろう。いつか実現してみせる、神羅がすべてをおさめる世界を。お前の想いが残る、この星に・・・


和解したあの日、弟は綺麗な笑顔で呼んでくれた・・「兄さん」と。ルーファウスは笑顔を作った。鏡の中の弟は、あの時よりも少し哀しげに、ルーファウスを見ていた。ルーファウスは、鏡の中の弟の唇に、自分の唇を重ねた。

鏡の面(おもて)に、一筋の涙が流れた。

これは私の涙ではない。弟の涙なのだ。私は泣くわけにはいかない。そうだ、私は泣いてはならない。私の涙はお前が全部持っていくがいい。

唇が冷えていく。その冷たさが、これから先、彼が歩いて行かねばならぬ道を思い起させた。ルーファウスは、鏡から顔を離し、もう一度鏡を覗き込んだ。弟はまだそこにいた。そこで兄を見守るかの如く、微笑んでいた。

それがルーファウスの見た、弟の最後の笑顔だった。

Rufus0m1b

にほんブログ村 ゲームブログへ

« 汚れなき旅立ち(ジェネシス&アンジール) | トップページ | CCFFVII・PSP専用ケース »

二次創作小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/222427/17129627

この記事へのトラックバック一覧です: 失われた微笑(ルーファウス&ラザード):

« 汚れなき旅立ち(ジェネシス&アンジール) | トップページ | CCFFVII・PSP専用ケース »

2016年6月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
フォト

Twitter

無料ブログはココログ