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ニブルヘイムに雨が降る(セフィロス)


「どんな気分がするものなんだ?俺には故郷がないから解らないんだ・・」


セフィロスはクラウドに尋ねた。この一般神羅兵がニブルヘイムの出身だと、ザックスから聞いていたからである。他人に、ましてや一兵卒にしか過ぎない若者に、セフィロスがそんな言葉をかけるなど、珍しい事であった。


ニブルヘイムは辺境にあり、セフィロス達が到着した時には、村は夕暮れに染まっていた。今にも泣き出しそうな空も、夜の闇へと色を変えつつあった。



宿屋の二階の窓から、セフィロスは村を眺めていた。歳月に晒され、古びた家屋、給水塔、闇の中にわずかに輪郭を残す山々、揺れる木々の影。セフィロスは手を伸ばし、窓の硝子に触れた。冷たい感触、硝子越しの風景。俺はいつも硝子越しに”外”を見ていた・・?何だ、この妙な・・感覚?・・思い出?記憶?


(俺は・・この景色に見覚えがある)


初めて訪れた場所のはずなのに。懐かしいとは、こういう感覚なのか?ならば何故、俺はそう感じるのだ?資料室で読み漁った記録の数々が頭をよぎった。たどり着きたくない答えが、そこにおぼろげに姿を見せ始めていた。セフィロスは、あえてそれを考えまいとした。



一番古い記憶・・ガスト博士の顔。神羅の施設でセフィロスは育った。検査、訓練、検査、訓練の繰り返し。やがて戦場へ、セフィロスは出て行った。

戦場から戦場へ渡り歩く度に、セフィロスの名声は高まっていった。自分が何であるか、誰であるか、そんな事を考える暇もなかった。彼はいつも戦場にあり、最前線で戦っていた。そして彼は”英雄”になった。



彼は孤独な”英雄”だった。



ジェネシスとアンジールが、彼の前に現れた時、セフィロスは初めて自分以外の人間に親しみを覚えた。彼等はどこか自分と似ていた。優れた能力と才気。そしてもっと深い何か・・彼等は自分と同じ物を持っていると、セフィロスは感じた。彼等も、誰もが敬遠する英雄に臆する事無く向き合った。


それは、友情と呼べるものだったかもしれない。


ジェネシスとアンジールは同郷の幼馴染だった。二人の馴れ合った会話や態度が、セフィロスには好ましかった。その傍らにいると、自分も彼等と何かを分かち合っている様な気がした。


だが、ジェネシスが失踪し、アンジールも消えた。
セフィロスは、また一人になった。


そしてセフィロスは知った。ジェネシスとアンジールが、神羅の実験によって生み出されたモンスターだったと。神羅の研究の非道さを知らぬセフィロスではなかったが、その事に衝撃を受けずにはいられなかった。セフィロスの中で、疑問が兆したは、その時だったかもしれない。自分の存在について。


宿屋の親父がセフィロスに声をかけた。


「まだお休みになっていなかったんですか?」
セフィロスは振り返り、努めて穏やかな声で言った。
「天気が悪くなって来たな」
親父も窓の外を見上げ、一人頷きながら答えた。
「通り雨でしょう。山の方に雲はありませんでしたから、明日は晴れると思いますよ」
「それならいいが」
親父は軽く頭を上げると、階下へと降りて行った。


窓の外は、すっかり闇に包まれていた。降り始めた雨が、窓硝子に細い筋を残した。窓の闇の中に、セフィロスの姿が映っていた。窓を伝う雫が、丁度セフィロスの魔晄色の目から頬に、涙の様に流れた。嗚呼、俺はずっと泣いた事がなかった。セフィロスは思った。最後に泣いたのが何時だったのか、彼は思い出せなかった。


セフィロスは苦笑した。今日はどうも感傷的になり過ぎる。


部屋に戻り、寝台に身を横たえた。任務なのだ。今は余計な事は考えるのはやめるべきだ。明日は魔晄炉を調べねばならない。敵の事も、村の安全も考慮して、兵士の配置もせねばならない。ザックスはまだ未熟だ。奴にはまかせてはおけない。やらねばならぬ事は、山の様にある。セフィロスは目を閉じた。



浅い眠りの中で、セフィロスは夢を見た。


二人の子供が林檎の並木道を駆けて行く。笑い声が聞える。あれはバノーラ・ホワイト、通称バカリンゴ。セフィロスは二人に教わったリンゴの名前を、夢の中で思い出す。明るい髪の子供と黒髪の子供、あれはジェネシスとアンジール・・彼等の子供時代。


泣き声が聞えた。二人の子供が地面にしゃがみこんで泣いている。ジェネシスの重ねた手の中に、死んだ小鳥がいた。二人は小鳥の死を嘆いていたのだ。先に涙を拭いたのは、アンジールだった。彼は立ち上がり、落ちていた枝を拾い上げ、林檎の木の根元に穴を掘り始めた。ジェネシスはその側にやって来たが、まだしゃくり上げていた。両手に大事そうに小鳥を載せたまま。


小さな墓が出来た。白く丸い石が墓標となった。二人は墓の前に並んでうなだれた。二人の頭上には、青紫の林檎の実が揺れていた。細い女の声が二人を呼んだ。母さんだ・・どちらかが、そう言った。二人は顔を上げ、声の方へ駆けて行った。


二人を呼んだ女の声が、セフィロスの夢の中で木霊する。それはやがて二人の名ではなく、セフィロスの名を呼んでいた。夢の中で、セフィロスは呼びかけていた。顔も知らぬ母、名前しか知らない母に。母の名はジェノバ・・顔のない母がセフィロスに微笑みかける。


セフィロスは感じていた・・・母の存在を。今、自分のすぐ側に・・・

(母さん、母さん・・俺の・・・)

夢の中で、セフィロスも微笑んだ。


夜が更けるに連れ、雨は激しくなった。セフィロスを映していた窓に、雨は後から後から降っては流れる筋となり、泣き止まぬ子供の涙の様に、流れ落ちていった。まるで村そのものが、何かを哀れみ、泣いているかの如くに。



それは、ニブルヘイムに運命の日が来る、七日前の夜であった。




(fin)



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